黒部横断 大タテガビン第二尾根 その2

2月28日
一晩でどれくらい積もったのだろうか?
ホテルガビンの快適な一夜は、この日の朝の景色からは想像もつかないほど快適だった。
次第に天気がよくなる予報。
しかし、完全に自然に戻っている。見事に降り積もったものだ。
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バンザイラッセルでスタート。平地でばんざい。半端じゃない。
当然ながら、全く進まない。
気の遠くなるようなラッセルを繰り返して、ようやく南尾根P4。
ここから大キレットになっていて、懸垂で下りなければならない。
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黒部の底に下りた時のことを思い出し、万全の体制で下降する。同じミスは繰り返さない。
出だしはブッシュの急斜面。
こんなところは長い懸垂はハマる。シングルでこつこつ下りる。
だんだん傾斜が出てきて、最後は完全に空中懸垂。
結局3ピッチでコルに下りることができた。大きなトラブルはなかったけど、
重荷を担いでの懸垂は体力を奪われるものだ。
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その先もラッセルは続く。
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結局最後はスコップで雪洞3つ分くらいの雪をかき分けながら、小ピークを超えたところで時間切れ。
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その先もしばらくリッジが続きそうな感じだったので、2100mの地点のリッジ上にテントを設営。
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明日の晴天の予報。本日の獲得距離、地図上で1.5cm。
黒部ダムが見える。
ダムがなかったら、と想像してみる。もっとこの山は深かったに違いない。
見渡す限り山しか見えないこの場所で、僕はこの上ない幸せとちょっぴりさびしさを感じた。
2月29日
非常によい天気。
ここ黒部において何が一番快適か、と聞かれたら「乾燥している状態」と答えるだろう。
2日続けての晴天のおかげで、ウエアその他は完全にリセット。気持ちがいい。
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しかし、天気予報は明日からの悪天を告げている。
今日のうちにどこまで進むことができるか。
昨日のうちにほぼ核心は抜けていたので、いいピッチで進む。
雪もあっという間に締まってくれた。黒部の雪は本当に不思議だ。
出発してしばらくはアップダウンのある雪稜。苦労の割には距離は出ない。
しかし、P2あたりからロープなしで行動できる箇所が増えてきて、ますますペースが上がる。
P1過ぎたあたりから完全にロープを解き、締まった雪に助けられてあっという間に黒部別山南峰に到達。
ここでようやく剣が見えた。
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鳥が翼を広げたようなその姿は本当に美しい。
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いよいよここまでやってきたか。
まだ時間はある。天気もいいので進めるだけ進むことにした。
ハシゴ谷乗越との分岐から八つ峰の4の沢に向けて、谷の中を一直線に下降。
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剣沢もほぼ完全に雪に没していたので、簡単に渡ることができた。
八つ峰3稜を少し登った台地にテントを張る。長い一日だった。


黒部横断 大タテガビン第二尾根 その1

2月26日
朝から天候が悪い。予報では日本の南岸を低気圧が通過。その後冬型に。
午前中はそれほど影響はないと思ってたけど、朝からどんどん天候が悪くなっていく。
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湿雪がウエアにまとわりつく。表層にはかなり立派な弱層があって、行動も慎重になる。
みんなはどう思ってたか分からないけど、僕は今日中に第二尾根抜けて南尾根に取り付けたらなあ。。。
なんて考えていた。
第二尾根そのものには難しいところはなく、隣に見える第一尾根のいかついリッジに比べたら平和そのもの。
ところどころ乗越すのに手間なキノコ雪はあったけど、概ね順調に進んだ。
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でも相変わらずトップは空荷。雪は深い。
午後になって雪と風が容赦なくたたきつけるようになった。
パタゴニアってこんな感じなんかなあ。。。などと考えながら、でももっとすごいんだろうなあ。
でもここの気象条件も、世界的に悪いんだろうなあ。。。
尾根がだんだん広い斜面になって消えた。もういつ雪崩れてもおかしくない。
しかしどこもテントを張れそうな場所はない。行動食を前倒しでザックの奥から引っ張り出す。
腹が減っては戦はできぬ。
とにかくいい場所が見つかるまで行動し続けるしかなさそうだ。
トップのラッセルでどんどん雪崩が発生する。
ラインを選んで慎重に進む。
出発から12時間。
ようやく1960m付近にテントを設営。吹き溜まりの悲惨な場所だったが、ここ以外に張れそうな場所はない。
全身ずぶ濡れ。
空炊きしても乾きそうもないくらいに濡れてしまった。
恐るべし、黒部の雪。
2月27日
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天気予報では全く行動できなさそうなことを話していたので、あきらめてゆっくり寝ていた。
朝起きてまず雪かき。
テントが半分埋まってしまった。今日は一日中雪かきか~と思っていた。
ところが様子がおかしい。だんだん明るくなってきて、太陽が出てきたではないか。
晴れている!
あわてて準備をする。
どうせ夜はまた冬型で荒れる予報。今の場所ではしのげない。
それにこの先は南尾根P5の基部をトラバースしなければならない。これ以上積もると行動そのものが
危うくなる。
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この先に幕営地があるかは定かじゃないけど、とにかく動ける時には動かなければ、いつまでたっても
前に進まない。
1ピッチ懸垂した後は、岩の基部をトラバース。
何とかいい場所はないものかと探していたところ、なんとホテルのような岩小屋があるではないか!
これを逃さない手はない。
翌日のためにロープをFIXして、岩小屋にテントを張る。
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「ホテルガビン」と名づけたその岩小屋で、久しぶりに平和な夜を過ごすことができた。
本日の獲得距離、地図上で1cm。


黒部横断 大タテガビン第二尾根

次回予告編!


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