黒部横断 下山
3月5日
この日も天気予報に裏切られて、まあまあよい天気。
後半は天気予報と正反対の天気が続いた。
分からんもんだ。。。
3時間あまりで早月尾根を下山。中盤までに比べて、最後はあっけなかった。
すっかり小さくなったザックとボロボロの身体だけが、2週間の全てかもしれない。
伊折までの3時間も相変わらずわかんだったけど、山行を振り返るにはちょうどよい時間だった。
結局、計画していたルートはことごとく敗退した。
状況に合わせてできるだけのことはやった、なんて言葉は結局都合のよい言い訳で、最初から最後まで翻弄され続け、手も足も出なかったと言うことが真実だ。
降れば一晩で1m以上の積雪。
こんなのはここでは当たり前。でもいざ体験してみると、人間なんてちっぽけなものだ。
結局何もできず、嵐が過ぎ去るのを待つのみ。
そして嵐のあとは、人の存在をかき消すかのごとく、完全に真っ白な世界にリセットされる。
ここでは人間の存在は、完全に拒否されているのかもしれない。
クライミングをする天気ではなかったことは事実。
しかし、それ以上に心が負けていたのかもしれない。
ワンデイクライミングの成果云々なんてものは、ここでは通用しない。
ひたすらもがき続け、それでも進み続ける気持ち。
はまってもなお、進み続ける気持ち。
心が折れてもなお、進むしかない。
ことごとく敗退した。
心も折れた。
それでも横断できたことは素直にうれしい。
こうやってやっと記録を書き上げることができた。
こんなに時間がかかってしまったのは、やっぱり疲れてたのかな。。。
全力を注ぐことができました。
充実した山登り。こんな時間をすごすことができて幸せです。
全てに、ありがとう!
黒部横断 真砂尾根から剱岳頂上
3月3日
黄砂が降る予報。
天候もよくないとの予報だったが、意外にも視界が利いている。
これなら進めそうだ。
準備をして外に出てびっくり。
世界が黄色い。
サングラスのせいではない。
明らかに昨日の雪よりも黄色い。
長い間山に入ってると、こういう変化に敏感に気付くようになる気がするけど、この黄色は誰が見ても明らか。
またラッセル。
ついに「泳げたい焼き君」が頭の中をぐるぐる回るようになった。
毎日毎日・・・
擬似晴天だと思っていたけど、大きな崩れはなく内蔵助山荘まで進むことができた。
小屋のそばに雪洞を掘ってテント設営。
3月4日
完全に下山モード。
この日の午後から天気が悪くなるようだ。
いけるところまで行って雪洞でも掘ればいいかと思いつつも、気持ちは完全に剣を越えることしか頭になかった。
別山から剱岳
昨日までは考えられなかった速さで進む。完全にスイッチが入っちゃった。
剣御前小屋まで1時間半。
弥陀ヶ原に人影が見える。富山県警のようだ。冬山訓練で、入山している話は聞いていた。
早月尾根パーティーもいると聞いていたので、ひょっとしたら途中で会うかもしれないね、なんて話し合っていた。
天候はまだ大丈夫なようだ。
別山尾根をひたすら進む。
幸い、雪の状態はよく、そんなに深くない。前剣の登りも、快適な雪に助けられて、あっという間に突破できた。
順調だ。
信じられない晴天の中、快調に進む。
平蔵のコル
ここまで来て確信した。
剣は最後の最後だけは微笑んでくれたようだ。
カニの横ばいを慎重にこなし、もうすぐ山頂、と言うところで頭上に人の姿が。
何と、富山県警ではないか!
彼らも今日、登ってきようだ。
入山して10日あまり。初めて人の気配に触れた。
なんだか無性にうれしかった。
3人でしっかり肩を組んで写真を撮っていただいた。
年末に苦労した早月尾根は、県警のトレースのおかげであっという間に下ることができた。
早月小屋で、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
黒部横断 八ッ峰
3月1日
ついに3月になった。
昨晩から降り出した雪は、すでに30センチ以上積もっている。
吹雪の中出発。
しかし、出発して間もなく、とんでもなく雪の状態が悪いことに気付く。
空荷でラッセルしていた。
さすがに慎重にならざるを得ない。
しかし、次の一歩を踏み出した瞬間、亀裂が数10メートル走り、目の前から右側のルンゼ全てが雪崩れる。
その後も同じような状態が続き、ところどころ見えているブッシュにアンカーを求めて
ジリジリ進むしかなかった。
目の前に亀裂が走ること数回。
こんな戦慄を覚えながらの前進は久しぶりだ。決してほめられたものではない。
しかし、どうすることもできない。
いつ目の前の斜面が切れ落ちてもおかしくない。
雪は激しさを増す一方。
普通だったら1時間ほどでたどり着くはずのサルスベリのルンゼまで、軽く4時間かかった。
しかし、この状態ではルンゼに突っ込むのは自殺行為。
何とかテントを張る場所を求めるが、付近に適当な場所はない。
少し下って雪面を切り崩し始めたが、この雪では一晩耐えられないかもしれない。
仕方なくさらに下って、大き目のシュルントを拡張してそこにテントを張った。
ようやく落ち着ける場所にたどり着いた。
今日もだいぶんぬれてしまったので、いつものように食事をしながら物を乾かす。
腹も満たされ、さあ水作りを再開しますか。
そんな雰囲気だった頃、なんとなく不安を感じて外の様子を見に行った。
おかしい。
急激に天井が下がっている。亀裂も大きくなってきている。
崩れる!
瞬間的にそう思った。
仲間に危険を知らせ、大急ぎで荷物をまとめてテントを撤収。
その直後、ズドンと天井が落ちた。危機一髪。
死にはしなかっただろうけど、テントは終わっていただろう。
どうもシュルントを無理やり拡張したのがよくなかったようだ。
また行動準備をして、シュルントの外に出る。
雪は降り続いている。
少し下ったところにテントを張るつもりだったが、ここも雪崩でさらわれるかもしれない。
状況的に一番ましな場所はシュルントの中だけ。
仕方なくまた戻り、シュルントの入り口あたりに無理やりテントを設営。
1時間おきに交代で起きて、シュルントが広がってないか見張る。
夜が明け、晴天が広がっていた。
しかし、気持ちが切れてしまった。完全に折れてしまった。
身体も一気に重くなった。雪の状態も悪いが、それ以上に身体と心が終わっていた。
3月2日
八ッ峰をあきらめることにした。
重い身体を真砂尾根に向けて進める。
雪が非常に多く、下りでもなかなか進まない。
いつものように空荷でラッセルする。
身体が重すぎる。。。
昼過ぎに行動をやめ、今度こそゆっくり寝るために雪洞を掘る。
1時間ほどでテントを設営できるくらいの快適な雪洞になった。
明日はまた悪天の予報。
そう簡単に進ませてくれない。